黄昏
暮れなずむ王国の空。宵の明星が西の空に現れ出ずるを待つまでもなく、眼下に広がる都市は幾千幾万の人工灯に彩られ始めている。
ノクトは高層城の最上階にある自室の窓辺にいた。そうして豪奢な彫刻の施された窓枠に手を掛け、刻一刻と移り変わる夕暮れの空を飽きもせず眺めていた。
太陽はやがて沈み、光の残骸が闇の差し迫った天空に鮮やかな紫色のカーテンを敷いていく。
――あ……あの色。
ノクトは食い入るように空を見つめた。
――ステラの瞳と同じ色だ。
その発見が引き金となり、次から次へと出会いの場面が思い出される。ただそれは、静かな展望ホールに飾られている死神の絵であったり、窓から見えた都市部の夜景であったり、水槽で泳ぐ魚だったりで、肝心かなめのステラ自身についてなんら確固たるイメージを作り出せない。
話の内容もほとんど覚えてはいない。緊張と気恥ずかしさとで、彼自身我知らず切羽詰まっていたのだ。
ただ彼は懸命に、つかの間の会話でかち得た彼女の印象を思い出そうとした。
しかし思い出されるのは、彼女がただ、女神のように美しかったということだけ。
どのような顔形をしていたか、どんな声をしていたか、思い出そうと努力すればするほど、それはまどろみのように心もとなくなる。
そうして彼は、ただひたすら彼女への憧憬の念を深くしていくのであった。
――彼女にもう一度会いたい。
その渇望ともいえる望みが張り裂けんばかりに彼の胸を締め付けた。
降ってわいたような己の感情に戸惑いを覚えるも、いまだそれが激しさを内包した恋情とはつゆとも思わず、
ノクトは憂いを秘めたその面をただ夜の闇に隠していた。
end,
novel