SOMNUS


St. Valentine's Day






その夜、チャラ男はノクトの部屋に大きな紙袋を抱えて入って行った。


「じゃーん!」
チャラ男の子供っぽい効果音とともにばらばらとテーブルに置かれた様々な形の箱。
数は優に百を越えるだろうか。
山と築き上げられたそれを見ても毎年のことなので、ノクトはさして驚かない。
黒い革張りのソファーに悠然と足を組んで座っている。

「ノクトもさあ、ぼくみたいにもっとオープンになったらいいんだよ。見た目はいうことなしなんだし、第一王子様なんだから、モテないわけないじゃん。
その取っ付きにくい印象をどうにかしてさ」
長年言われ続ける台詞。
いつもは「余計な世話だ」と内心イラッとするのだが、今日はそんなこともない。
ノクトの余裕を見て取ったのか、チャラ男は「おっ」という顔をした。
「さてはステラちゃんに――」
ノクトは肯定も否定もせず、ただいつも通りポーカーフェイスを貫こうとしたが、自然と頬が緩んでしまう。

「ふーん、よかったねぇ。でも実はぼくももらったんだ」
えっ?という表情で顔を上げるノクト。
「俺ももらった」
「オレも」
追い撃ちをかけるように入って来たメガネとスカーフェイス。
表情こそ変えないものの、ノクトの心に淋しげな風が吹き始める。

「これは、アレだね――」
それ以上言うな というメガネの視線を気にもせず、チャラ男がとどめを刺す。

「義理チョコ」

その言葉はグサリとノクトの心に突き刺さった。
自分にだけじゃなかったのか。
浮かれていた自分が惨めで哀しくて恥ずかしくなった。

「まだ義理と決まったわけじゃないだろ」
急に暗くなったノクトを見兼ねて、メガネはついと前に出た。
ついでのようにチャラ男の腕をつねるのは忘れない。
いてぇっと叫ぶ彼を尻目にノクトに向き合う。

「中身は確認したか?」
「いや、まだだけど――…」
「本命かどうかは中身でわかる。早く開けてみろ」
「あ、ああ」

ノクトはいそいそと紙袋の中からきれいにラッピングされた箱を取り出した。
グローブを外し、丁寧にリボンをほどく。
そのけな気な様子がまるで初めて恋をした小学生ぐらいの少年のようで、メガネはほほえましく感じた。
箱の蓋をそっと開けると――

中から出てきたのは、ハート型のガトーショコラ。ちょうど手の平サイズで、手作りと分かるいびつな形をしていた。しかし、それがたとえ様もなく素朴な温かみを醸し出している。
メガネはノクトの肩を叩いた。
「これは本命だ。俺たちのはこれだったからさ」

ノクト以外の三人がステラからもらったのは、高級菓子店のチョコレートだった。

「よかったな」スカ―フェイスが、ばしっとノクトの背中を叩く。
「よかったね、ノクト。これで彼女いない歴○年から解放――……」
言いかけたチャラ男の首をスカーフェイスが勢いよくヘッドロックする。
ギブギブっと言いながらチャラをがもがく。

ノクトは改めて両手で大切に受けたチョコレートを眺めた。
手作りのチョコレートをもらったのは生まれて初めてのことだ。
ステラはどんな思いでこれを作ってくれたのだろう。
自分のことを考えながら作ってくれたのだろうか。

それを思うと自然に笑みがこぼれる。

その様子を三人は少し離れたところで眺めていた。

「ノクト、一人でにやにやしちゃってるよ。眉毛が垂れてる」 
あーあ、クールなイメージが台無しだ。チャラ男がぼやく。

「いいじゃねぇか。笑ってるあいつはなかなかかわいいぜ」スカ―フェイスが茶々を入れる。

「さあ、邪魔者は外に出よう。これから彼女にお礼の電話でもするだろう」
メガネが二人の背を押した。

そう言いながら三人が部屋から出て行ったが、それにもノクトは気付いていなかった。
彼の頭の中は、自分にチョコレートを手渡した時の、少し頬を染めたステラの顔を必死で思いだそうとしていたから――……。




―END―



あとがき

チャラ男の一人称を「おれ」か「ぼく」かで悩みました。
そもそも彼の言葉づかいもわかりません。性格も。
もっとクール系かもしれないですね。いや、映像見る限りそれはないか。
ただ、今の段階では「ぼく」キャラかなと思って決めました。
あとの二人はなんとなく「おれ」。
メガネ兄さんは「私」もありうるかな。

ノクステにしよーと思ったのに、最後までステラちゃん出番なしですみません。
ノクトの頭の中にだけ登場です^^;


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