SOMNUS

伝えたい言葉その後


週末の夜、場末の居酒屋。
晴れてステラと恋人同士という仲になったノクトは、仲間たちから祝福を受けていた。


「で、ステラちゃんとはチューしたの?」

ぶはっ。
チャラ男の一言にノクトは飲んでいたウーロン茶を思わず吹いてしまった。

「まったく、分かりやすいよねぇ」
ビールを仰ぎながらチャラ男がにやにやする。

「ったくメガネ、何でボクを置いてくかな。せっかくのノクトの初チューを写メに……」
「だからだ」
メガネがチャラ男のビールを横取りする。
「ああっ、何すんだよ」チャラ男が情けない声を上げて抗議する。
「飲みすぎだ、バカ」
「そうそう、酔い潰れたお前を運ぶのはいつも俺なんだからな」
スカ―フェイスが、つまみのナッツを皿ごと口に流しながら相槌を打つ。
「昔の話だろ。この歳になってたかがビール三杯で酔い潰れるわけないじゃん。ノクトじゃあるまいし」
「……俺だって潰れない」
呼吸を持ち直したノクトが反論する。
「あれあれ、そしたら今手に持ってるウーロン茶は何かな?」
チャラ男が冷やかす。
「酒は……嫌いだ」
「でも、あの夜、バーでは飲んだんだよね、お酒。もしかしてお酒の勢いを借りてステラちゃんに告白したの?」
ノクトは、うっと詰まってしまった。確かに、その可能性はある。
素面のままだったら、到底言えなかっただろう。
「んで、お酒の勢いを借りてチューしちゃったんだ、あはは」
否定できないノクトは黙っていた。
アルコールの高揚感があったとはいえ、断じて軽はずみな気持ちからステラに自分の想いをぶつけたわけではないが、それを言葉にするのが億劫だった。それに、今のチャラ男に説明したところで空しいだけだ。

しかし、なんだってこいつはやたら絡んで来るのだ。
ノクトはチャラ男を横目で睨んだが、当の本人は全く動じた様子はなく、今度はノクトの肩に腕を回してくる。
「んで、チューした後はどうしたの? そういえば、あのバーの下はホテルだったよね。まさか……」
「殴るぞ」

拳を握り締めたノクトを見て、やっとチャラ男は「冗談だよ〜」と悪びれた様子もなく体を離した。
しかし悪酔いした彼の冷やかしという名の攻撃はおさまらない。

「でもさ、ノクト。このままステラちゃんと仲良くなったところで、今のままじゃ結婚は出来ないよ」
「結婚……!?」
「それは俺も思う」
スカ―フェイスも頷いた。メガネだけが、我関せずと、静かにカクテルを傾けている。

「結婚てなんだよ、まだ早いだろ」
何でこいつらは話を飛躍させるのだ、とノクトはうろたえた。ステラとはまだ付き合い始めたばっかりだというのに。

「そりゃ、まあ、フツーの男子ならさ、のんびりしてればいいよ。ゆっくり愛をはぐくんで行けばいいさ。
でも、ノクトはフツーじゃないんだ。次期国王という超レアな立場なんだ。だからさ、結婚相手だって親父さんが決めるだろ。あの人のことだ、きっと王国の利益となる婚姻関係を作りたがるはずだね」
チャラ男の言葉をスカ―フェイスが引き継ぐ。
「すなわち、ノクト、お前は名門といえど格下の家柄であるステラ嬢とは結婚できないってことだ」

ノクトは漠然と感じていた懸念を言い当てられ、巨大な圧力をその身に感じた。
自分の置かれた立場を考えていないわけではない。
しかし、将来を考えれば考えるほど、責任の大きさに圧し潰されそうになる。
だから、仲間といる時間だけでも、自分が次期国王であることを忘れたいのに。
なんだってこいつらは――

「逃げるなよ、ノクト」
びくっとなって顔を上げると、メガネが自分を見つめていた。
「俺たちはお前を全力で支える。お前が国王になっても、それは変わらない」
内心を読まれていたかのように的を射たメガネの言葉にノクトは瞳を泳がせた。
――力強い言葉だった。

「そうだよ、ノクト。ノクトが王様になっても離れたりしないからね。むしろ腰巾着のように毎日くっついてるからね」
チャラ男が身を摺り寄せてくる。
「それはよせ」
片手でチャラ男の肩を押し返しながら、ノクトはそれでも彼の言葉が嬉しかった。
王となった自分を想像するうえで一番怖かったのは、仲間が離れてしまうことだったからだ。

「おいおい、本題を逸れちまったぜ。要はノクトがステラ嬢と結婚するにはどうすればいいかってことだろ」
スカ―フェイスが、もう何杯目か定かではないジョッキグラスをどんっとテーブルに置いた。

「そうそう、それなんだけど、すっごくイイ考えがあるんだ」
チャラ男が白い歯を見せてにっこりと笑う。人懐っこいこの笑顔に大半の女は騙されるのだ。

「どうせ、ろくでもないことだろ。言わなくていい」
クールにノクトは顔をそむけたが、どんなことだろうか、と本音はものすごく興味があった。

チャラ男は得意そうに人差し指を立てた。

「『出来ちゃった婚』! これしかないでしょ。早いとこステラちゃんを孕ませて……」

「お前、やっぱり一回殴られろ」

ノクトはチャラ男の襟首をつかんだ――。


「まあ、待て待て」 スカ―フェイスが間に入る。
「でもよ、ノクト。案外いいアイディアだと思うぜ。いくらなんでも相手の女の子身ごもらせたら、責任とらなきゃならんと、あの頭の固い親父さんだって思うだろ」

「思うわけないだろ。あの人のことだ。国の恥になることは何が何でも隠そうとするに決まってる」

ステラだって、消されるかもしれない――。
最後の言葉は声にしなかった。
自分とステラの関係は何が何でも父王に知られてはならないと思った。
王は、自分の思い通りにならないと気が済まない性質だ。
自分に対抗する勢力を、クリスタルの力を借りて幾度となく闇に葬っていることをノクトは知っていた。

――ステラは、絶対に守る。

心内で、ひそかにノクトは固い決意を抱いたのだった。



END

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わーこんなシリアスにするつもりはなかったのに!!すみません!!

ただ、ノクトは立場上、恋愛も結婚も自由にはならないんじゃ・・・と思いました。
あの会議室の親父さん(と勝手に決め付けてますが)、ノクトの私生活に対して口うるさそうです。
FF10みたいに親子喧嘩なんて見れるんでしょうか?(笑)
製作者さんは「恋に関しては難しいことをしたい」と考えておられるようですが、すなわちこういうことかな?  ・・・妄想するしかない日々です^^;



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