SOMNUS

寝ぼけ王子






窓から差し込む柔らかな朝日を感じ、ステラは目を覚ました。

幸せな夢を見ていた気がする。

内容は思い出せないが、ただそう感じた。

そっと身を起こす。

隣では、ノクトが仰向けでぐっすりと眠りこんでいる。

絹のなめらかなシーツの上をほっそりとした指が這い、
彼の長い前髪をそっとかき分ける。

すると長い睫毛が閉じられた端正な顔が現れた。

――なんて無防備な寝顔。

ステラはほほ笑んだ。

いつもきりりとした眉は下がり、唇が半ば開き、前歯が細く覗いている。

子供のようにあどけない。

彼のこんな表情を見るのは初めてだ。

普段の彼は、仲間とふざけあっている時も、自分と二人だけで居る時でさえ、
どこかで「次期国王」というその立場を気にしている節があった。

彼は否定するだろうが、その重々しい責務は少なからず彼を束縛しているのだろう。

だから、どうか夢の中でだけは自由であってほしい、そうステラは願った。

今日はどうやら伸び伸びと夢の世界を楽しんでいるようだ。


枕をクッション代わりにして、ステラは背を預けた。

ほほ笑みながら、彼はどんな夢を見ているのだろう、と想像を巡らせる。

――食べ物の夢かしら?

すると、視線を感じたのかノクトがゆっくりと瞼を開いた。

「あら、起こしてしまいました?」

ステラは少し申し訳なさそうに言った。

気配に敏感な彼のこと、たとえ眠りの中であっても視線は感じるのかもしれない。

しかし、ノクトはそれには答えず、ゆっくりと上半身を起こした。

盛り上がった胸板、割れた腹筋、縄のように引き締まった腕があらわになる。

昨日は暗かったのでよく見えなかったのだ。

彼の逞しい体躯を見てぼーっとなりそうだったステラは、
自身も上半身に何もまとっていないことに気づきあわてて掛け布を引いた。

ところが、突如伸びてきた屈強な手が彼女の細い手首をつかみ、それを阻んだのである。

「ノクトさ――…」

抗議の声はしかし、覆いかぶされた唇に呑まれた。

「……っ」

彼の舌が侵入してくる。

それは逃げる彼女の舌を執拗に追いかけまわす。

彼女は抵抗しようともがいたが、がっしりと掴む手はびくともしない。
力の差は歴然としている。

――一体どうしたというの? ノクトさまがこんな乱暴に……。

昨日もその前の夜も初めての時も
彼はステラが決して苦痛を感じないように物凄く気を使ってくれたのだ。

――それがなぜ?

ようやく唇を離される。

息を荒げながら、彼を睨む。

しかし彼の青い目は、彼女を素通りしてどこか遠くを見ているようだ。

――もしかして、寝ぼけてる?

それは真実のようだった。
なぜなら彼は欲情している際、目の色は緋色になるからだ。

ステラはへなへなと体の力が抜けた。同時に怒りも薄れていく。

彼女の柔らかな双山の膨らみに顔をうずめてくる彼の頭を抱く。


「ステラ……」

寝言だろうか。ほとんど聞き取れないそれに耳を傾ける。

「……愛してる……」

ステラはほほ笑んだ。

寝言であっても、自分の夢を見てくれているのだ。
嬉しくないわけがない。

「私もです」

それが聞こえているのかいないのか、
ノクトは安心しきったようにまた寝息を立て始めたのだった――…。










END
















***********************************


「彼は欲情している際、目の色は緋色になるからだ」……この部分、なんだか動物の観察記録みたいですね(笑) 

実際こんな設定ないと思いますが、もし本当にそうだとしたら、「ノクトばればれじゃん!」(byチャラ男)

でも結局無理やり・・・っていってもキスどまりなんですから、やはりノクトは良い子です。


こんなの駄文を読んでいただきありがとうございました(=´∇`=)






TOP
inserted by FC2 system