SOMNUS

再会









「探し物のご到着か」
少しおどけた風にサッズが言うと、
ライトニングは確信に満ちた声でそれに答えた。
「ああ、あの中だ」
「パルスのファルシか…」
サッズはその奇妙な物体を改めて眺めた。

人の手によるものとも、自然の力によるものとも思えない。
太古の昔から存在する、ただ異様なまでの禍々しさを感じた。そしてその内に宿す強烈な意志の力も。
ライトニングは一体これをどうしようというのだろう。

サッズがライトニングに問いかけようとしたその時だった。

「誰だ!」
鋭くライトニングが叫んだ。手にはすでに武器を構えている。
サッズも慌てて銃を構えた。

二人が固唾を飲んで見守る物陰から、ほどなく声が上がった。

「おいおい、待ってくれよ。聖府のもんじゃねえ」

そして現われたのは、背の高い屈強そうな男だった。
顔中に無精ひげを生やし、長いコートを着て、頭に黒いターバンのようなもの――デューラグを巻いている。
両手を上げて無害をアピールしている彼は、一見したところ武器の類は所持していないようだ。

ライトニングはそれでも手にした武器を下ろそうとはしない。

「何者だ?」

男はライトニングの高圧的な態度に少々気分を害したようだ。
「それはそっくりそのままこっちの台詞だぜ。俺は聖府の奴らの攻撃を受けて橋を破壊され落っこちてきただけだ」
何かを思い出したのか、男は苦しげな顔をした。

サッズが驚いたように言う。
「あんな上から落ちてきて無傷とは、兄ちゃん運がいいな」

ライトニングは茶化したように言うサッズに「黙っていろ」と視線だけ送り、男に向き直った。

「聖府じゃないならお前は何者なんだ?」
「俺はノラの一員だ」
「ノラ……?」
首をかしげるライトニングに男は幾分胸を張った。
「そうさ、反乱軍ノラだ……」
そう言った男の目が見開かれる。男の目はライトニングの顔を凝視したまま動かなくなった。

「どうした……?」
不気味に感じたライトニングが数歩後ろへ下がる。
しかし同じように男も数歩前に踏み出し、そして駆け足のようにライトニングへ歩み寄った。

「この、寄るな……!」
ライトニングは武器を構えなおそうとしたが、それより早く男の手が彼女の腕を取りそれを阻んでいた。
「何を!」
「ねえさん!!」
男は興奮したように叫んだ。
「は?」
ライトニングの当惑をよそに、男はひとりまくし立てた。
「俺だよ、スノウだよ。施設でいっつもあんたの後を追っかけてたスノウだよ!」
言いつつ男は頭に巻いていたデューラグを取り去った。
白金の髪が光を受けて輝く。前髪が落ちてスノウというその男のひげ面を若干幼く見せた。
しかしなおライトニングは合点がいかない顔をしている。
スノウは少し悲しそうな顔をした。
「これでも分からないか、仕方ねぇな、随分俺も変わっちまったから」

スノウが掴んでいたライトニングの腕をゆっくりと離す。
そして再びデューラグを頭に巻いた。
「俺はねえさんのこと、忘れたことはなかったぜ」
スノウはその薄い水色の瞳を曇らせた。
その時ライトニングはようやく目の前の人物が誰かを思い出したのである。

「スノウ…、お前、スノウ・ヴィリアースか?」
名を呼ばれ、スノウの顔がにわかにほころんだ。
「ねえさん、思い出してくれたんだな!」
今にも抱きつかんばかりの男の接近を拒むように後退しながら、ライトニングは言った。
「分かるものか、変わり過ぎだ、お前は」

ライトニングの記憶にあるスノウ、十五年前の彼は自分よりも頭一つ背が低く、細くてか弱く、いつも誰かに泣かされていた。
プラチナブロンドの髪が災いして女の子のように可愛らしい彼をいじめっ子たちから守るのが、当時のライトニングの使命だった。

その彼がまさか、こんなひげ面の大男に成長しようとは……。

ライトニングは呆れたようにスノウを見やったのだった。






end.






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